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プレシナプスからの神経伝達物質放出過程に重要な役割を果たす分子・オルガネラの神経活動依存的な時空間的特性を解明し、脳の機能を支える分子基盤の理解を目指す。生化学・細胞生物学・蛍光分子イメージング・電気生理学的手法など複数の研究手法を多角的に組み合わせたアプローチを採用することで、包括的な「シナプス分子生理学」を推進する。以下に、具体的な研究テーマを解説する。

 

【1】 シナプス小胞の神経伝達物質再充填・酸性化の分子メカニズム

  1950年代にベルナルド・カッツらがカエルの神経ー筋接合部を標本として行なった一連の研究結果から、神経から筋肉に伝わるシグナルは一定の大きさをもった「量子的(Quantal)」な性質を持つとする仮説が提唱された。現在では、シナプス小胞内に貯蔵された神経伝達物質の量が量子(Quanta)の正体であると考えられている。一方、最近の研究から、小胞内の神経伝達物質量はさまざまな制御を受けており、必ずしも常時一定ではない可能性も指摘されており、シナプス伝達の強さを変化させる要因の一つとして注目されている。我々は、小胞型グルタミン酸トランスポーターや小胞型GABAトランスポーターをチューブ内で人工小胞に埋め込む(=再構成という)実験方法を用いて、これらの神経伝達物質が小胞内に運ばれる原理と、活性制御機構について研究している。

(Takamori S. et al., Nature, 2000: Stobrawa et al., Neuron, 2001: Schenck et al., Nat Neurosci, 2009参照)

 

【2】 小胞リサイクリング過程のシナプス小胞動態及び小胞周囲イオン環境の変化

  神経伝達物質を放出した後には、形質膜へと移行したシナプス小胞膜の構成成分は再びプレシナプスに取り込まれることが知られている。このようにして、プレシナプスにおいてシナプス小胞が枯渇しないようにしているのである。新たに合成されたシナプス小胞は、プロトンポンプによる酸性化→プロトン勾配に依存した神経伝達物質の再充填を経て次の開口放出に備えるが、この過程は実質細胞内で起きているため測定は困難であった。最近、我々はpH感受性の赤色蛍光タンパク質を神経培養細胞のシナプス小胞内に挿入して蛍光をイメージングすると、この過程が従来よりも正確に追跡できることを見いだした。この実験系を用いて、小胞再利用過程のプロトンの役割や神経伝達物質再充填との関係や神経伝達物質特異的な性質を研究している。

(Egashira et al., J Neurosci, 2015; Egashira et al., PNAS, 2016参照)

 

【3】 膜融合タンパク質の選別・維持機構の解明

  シナプス小胞には膜融合に必須なタンパク質(シナプトブレビン)が存在し、形質膜に存在する2つのタンパク質(シンタキシン・SNAP-25)と複合体を形成することによって、膜融合を促す。従って、シナプトブレビンは膜融合後にシンタキシン・SNAP-25と乖離してから、新たに合成される小胞へと挿入されて行く。一方、形質膜のタンパク質は新たに出来た小胞へとは取り込まれずに形質膜に留まる。神経活動依存的に起こるシナプス小胞のリサイクリング過程において、如何にしてかくも厳密なタンパク質の選別・維持機構が達成されているのかに興味を持ち、その分子メカニズムの解明を目指している。

 

【4】 神経細胞に存在する膜小胞の多様性

  シナプス小胞は、速いシグナル伝達を媒介する特殊なオルガネラである。神経細胞には、シナプス小胞以外に有芯顆粒と呼ばれる大型の分泌小胞や、神経細胞が成熟する過程で膜タンパク質を樹状突起や軸索方向に運ぶ膜小胞など特殊な任務を遂行する膜小胞が存在する。また、同じシナプス小胞でも、貯蔵する神経伝達物質によって異なる組成から成り立っている可能性もある。我々は、神経細胞で働く様々な膜小胞の分子組成の違いや機能的特徴に興味を持っている。これらを脳から精製し、プロテオミクスや機能アッセイで分子組成や機能の違いを探求する。また、有芯顆粒に含まれるペプチド成分の解析から、新しい脳内生理活性物質の発見も期待できる。

(Takamori S. et al., J Neurosci, 2000; Nature, 2000; Cell, 2006等)

 

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